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西田豊明「インタラクションの理解とデザイン」岩波書店、シリーズ現代工学入門、2005年

1 インタラクションのとらえ方

1.1 人工システムとインタラクション

一定の秩序のもとで相互に連携する人工物の集合を人工システムと呼ぶ。近年、コンピューターとインターネットの出現によって、人工システムは複雑化、多層化、分散化し、が人の生活に深くかかわり、身体や精神の拡張にも利用され、コミュニケーションを媒介するメディアにもなった。

情報家電やウェアラブルコンピュータなどによって、人間の生活はこれまでよりもはるかに情報的に豊かになってきた。

新しい洗濯機の使い方をマニュアルを見て覚えるなどのように、これまでは人工システムの性能を引き出すためにユーザーの側が学ぶ必要があることも多かった。しかし、これからは人間社会が中心になり、メディアとして物理的にも精神的にも日常生活に深く入り込んでいくだろう。

精神的な側面に働きかけるメディア化した人工システムは、単なる物理的なモノとしての人工システムとは本質的に異なる。それをデザインするためにはインタラクションー人間、人工システム、環境などの間の相互の働きかけーを中心に本書の議論を展開する。

1.2 会話

会話は人間同士のインタラクションだけでなく、独りで行う思考でも重要な役割をしている。

表現メディアとして考えて、書き言葉で厳密に構造化された「テキスト的表現」に対して、会話の発話を記述した表現を「会話的表現」と呼ぶ。

誰でも簡単に移り変わりの早い現象をタイムリーに表現するには会話的表現が適する。

会話は理解の構造をつくるための試行錯誤のプロセス。

人間同士の会話を支援することも重要課題。

1.3 会話システム

初期の人工知能研究にSHRDLU(シュルドルー)とElize(イライザ)に代表される2つの方向があった。

SHRDLUは形態素解析、構文解析、意味解析、談話解析を行って積み木の世界モデルを参照しながら話者と対応する。

Elizeはあらかじめ与えられた会話パターンにもとづいて会話のまねごとをする。

SHRDLUの方が精巧で科学技術を十分に利用した理論の検証のためのシステムであったが、Elizeは会話(の中身)の面白さが成立するかどうかに重きを置いていた。Elizeの会話の方が面白く、それはつまりより巧妙に対話の文脈の中に組み込まれるようにデザインされたといえる。

人間はメディア表現と実体を表層では区別できるが、深層では混同しがち(ナス,リーブス「メディアと実体の混同(media equation)」)だといわれていて、コンピューターによる表層的な対話も人間の優れた情報解釈によって補われる。

1.4 インタラクションとコミュニケーション

人間同士のコミュニケーションという概念は意図を伝わるかで成否が決まるが、インタラクションという概念はより広く、意図がその通りに伝わらなくても成立する。

2 インタラクションのモダリティ

2.1 インタラクションを構成するモダリティ

インタラクションを構成する表現様式(モダリティ)は言語メディアと非言語メディアに大別される。

言語メディア: 構文規則や意味規則に従って複雑な内容を順序立てて詳細に記述することに適している。

  1. 自然言語
  2. 人工言語

非言語メディア: 表情や身振り、間の取り方や沈黙など言語メディアによる情報伝達を制御したり、言語メディアではうまく表現できないような情報を伝える。

ゲシュタルト: 認知において全体の認知が部分の認知に先立つ。会話には際だった発話や身振りなどによって図と地が現れることがある。

暗黙知: 言葉で明示的に表現された形式知の背後にある知識。会話では非言語メディアに暗黙知が現れることがある。

2.2 言語メディア


ソシュールの一般言語学:

パロール(個々の発話)を生み出す一般的な原理/原則でる「ラング」を明らかにすることが目的。

ラングは記号であるシニフィアン(意味するもの)によって意味されるシニフィエ(記号内容)がシニフィカシオン(記号の意味作用)で恣意的に結びつけることによって構成される。


理論言語学:

音と意味の間の結びつきを詳細に分析する。

最小単位の形態素によって単語を構成し、統語構造によって単語の列が形成されると考える。

以下の分野がある。

音韻論: 音が持つ機能と規則性を分析する。

形態論: 形態素に関わる現象や単語形成を分析する。

統語論: 文の生成を構造的に解明する。

意味論: 構文構造と意味との関連を分析する。

語用論: 指示語、省略など文脈的な現象や言語を試用する行動の分析を行う。


認知言語学:

人間の認知機能や身体的特性に関連づけて言語現象を分析する。

ゲシュタルトやスキーマなどの概念を用いて説明する。


(a) 言語行為論

言語行為論では発話に含まれる行為を分析する。

オースティンによる分類

  • 発話行為(locutionary act): 言うことそのもの。
  • 発話内行為(illocutionary act): 言うことで直接的に遂行される行為。(報告、約束、感謝、贈与、依頼、質問、命令、警告、陳謝など)
  • 発話媒介行為(perlocutionary act): 言うことの結果として生じる行為(説得、威嚇、皮肉、賞賛、非難など)

発話行為が適切であるための条件

  • 命題内容条件: 発話内容が満足すべき条件
  • 準備条件: 発話の参加者、場面、状況設定に関わる条件
  • 誠実条件: 発話の意図に関わる条件
  • 本質条件: 遂行すべき行為に関わる条件

会話が行われた状況から自然に推論される意味を「会話の含意(conversational implicature)」という。

会話の含意を類推する手がかりとして、グライスによる会話の公理がある。 「会話の協同原則(cooperative principle)」

  • 量の公理: 話しては、必要十分な情報を提供する。
  • 質の公理: 話しては、自分が真実と信じている情報を提供する。
  • 関連性の公理: 話し手は、話題に関係の無い情報を提供しない。
  • 様態の公理: 話し手は、情報を明瞭かつ簡潔に順序立てて提供する。